――超高齢社会が生み出した新たな世代間格差
日本では、人口減少や少子高齢化が様々な社会問題を引き起こしている。その中でも、あまり注目されていないが、今後重要性を増すと考えられる問題がある。
私はこれを**「9060相続問題」**と呼びたい。
これは、90歳前後で亡くなった親から、60歳前後の子どもが相続することが一般化し、社会全体として富の世代交代が著しく遅れている現象である。
富は高齢世代に集中している
日本では、戦後の高度経済成長と地価・株価の上昇を経験した世代が、多くの金融資産や住宅資産を保有している。
一方で若い世代は、
- 賃金の伸び悩み
- 非正規雇用の増加
- 高騰する住宅価格
- 教育費の増加
などにより資産形成が難しくなっている。
経済社会総合研究所(ESRI)の分析でも、高齢化は日本の所得・資産格差を拡大させる主要因の一つであるとされている。
相続は「遅すぎる」
昔であれば、親が70代で亡くなり、40代や50代の子どもが相続することも珍しくなかった。
しかし現在では、
- 被相続人は90歳前後
- 相続人は60歳前後
というケースが珍しくない。
60歳は人生経験も豊富であり、住宅取得や子育て、教育費負担といった人生最大の資金需要は概ね終わっている。
つまり、
最も資金を必要とする30〜40代ではなく、資金需要が落ち着いた60代になって初めて資産が移転する。
ここに9060相続問題の本質がある。
社会全体への影響
この構造は単なる家族内の問題ではない。
若年世代が
- 子どもを持つことをためらう
- 住宅購入を延期する
- 起業資金を確保できない
一方で、多額の資産は高齢世代に長期間滞留する。
高齢者も平均的には資産を取り崩しているものの、その速度は理論よりかなり遅く、遺産を残す意識や老後への不安が資産保有を長引かせる要因となっている。
結果として、
社会全体の資金循環が遅くなる可能性がある。
住宅格差も拡大する
近年の研究では、日本では住宅相続が若い世代の住宅取得を左右し、相続できる家庭とできない家庭の格差を拡大させる要因になっていることが指摘されている。
つまり9060相続問題は、
単に「相続が遅い」だけではなく、
相続できる家庭とそうでない家庭の格差を拡大させる問題
でもある。
解決策
この問題は寿命を短くすることで解決できるものではない。
むしろ、生前から現役世代へ資産を円滑に移転する制度を充実させることが重要である。
例えば、
- 教育資金・住宅取得資金・子育て資金の生前贈与をより使いやすくする
- 相続より生前贈与を促進する税制へ改める
- 高齢者が資産を有効活用できるリバースモーゲージなどの制度を整備する
- 子育て世代への直接的な資産移転を促す仕組みを検討する
といった政策が考えられる。
また、高齢者が将来不安から過度に資産を保持しなくても済むよう、医療・介護制度への信頼を維持することも重要である。
おわりに
「9060相続問題」は、長寿社会そのものを否定する概念ではない。
むしろ、
長寿という成功が、富の世代交代を遅らせるという新たな課題を生み出したことを示す言葉である。
今後、日本では巨額の相続が発生すると予想される。しかし、その資産が子育てや住宅取得、起業など社会の活力を支える年代へ届く時期が遅すぎるのであれば、その経済効果は十分に発揮されないかもしれない。
9060相続問題とは、「誰が相続するか」ではなく、「いつ相続するか」という時間の問題であり、超高齢社会の日本が向き合うべき新しい政策課題なのである。
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