建築物は、私たちの命と生活を預かる器です。だからこそ、そこに潜む「手抜き工事」に対して、人類はいつの時代も厳しい目を向け、時に強烈な皮肉やユーモアを交えた言葉で批判してきました。世界各国のニュースや街角で見られる、不良建築にまつわるユニークな比喩表現を覗いてみると、その国独特の文化や世相が見えてきます。
スカスカの「おから」と、押しつぶされた「パンケーキ」
最も有名な表現の一つが、中国の「豆腐渣工程(おから工事)」でしょう。1990年代後半、洪水によって長江の堤防が次々と決壊した際、当時の首相が「これはまるで豆腐のおからのような脆さだ」と激怒したことから定着しました。外見は立派に見えても、中身はボロボロで強度がない建築物を、大豆の搾りかすである「おから」にたとえた、実に辛辣な表現です。
一方で、国際ニュースなどで建物の崩壊を伝える際によく使われるのが、英語の「パンケーキ崩壊(Pancake collapse)」です。これは手抜き工事そのものを指すスラングというよりも、建築工学や報道の現場で使われる表現です。柱や壁の強度が足りず、上の階の床が下の階へと垂直に次々と崩落した結果、まるで何枚ものパンケーキが平たく積み重なったような無残な状態になることから、その名がつきました。ベネズエラなどの中南米で、脆い手抜き建物を現地語で「ケーキ(Torta)」と揶揄する文化があることも、この表現がメディアで多用される背景にあります。
お菓子の家と、舞台裏の道化師
欧米に目を向けると、また異なる文化的なアプローチが見られます。
英語圏には「ジンジャーブレッド・ワーク(Gingerbread work)」という言葉があります。元々は19世紀後半に見られた、お菓子の家のように可愛らしく装飾された木造建築を指す言葉でした。しかしこれが転じて、現在では「見た目だけは華やかで立派だが、構造的には中身が伴っていない安普請(やすぶしん)」を皮肉る表現として使われることがあります。
また、イタリアでは、あまりに杜撰(ずさん)でめちゃくちゃな工事計画のことを、伝統的な人形劇のキャラクターにちなんで「プルチネッラの仕事(Lavoro fatto da Pulcinella)」と呼びます。プルチネッラとは、ずる賢くて、いい加減で、いつもドタバタ騒ぎを起こす道化師のこと。「あいつに建築を任せたら、劇のようにめちゃくちゃになるぞ」という、イタリア人らしい皮肉の効いた表現です。
欠陥への怒りをユーモアに変えて
他にも、スペイン語圏には「金属の破片でとりあえず穴を塞ぐ」という語源から、その場しのぎのインチキ工事全般を指すようになった「チャプサ(Chapuza)」という定番の単語があります。
形は保っているけれど中身がスカスカな「おから」、見た目だけを取り繕った「ジンジャーブレッド」、そしてドタバタ劇のような「道化師の仕事」。並べてみると、表現の引き出しは違えど、人間が「手抜き」に対して抱く不信感と怒りは万国共通であることが分かります。
私たちが何気なく見上げるビルや住まいが、決しておからやパンケーキのようであってはならない――各国のユニークな比喩表現は、建築に関わる者への重い戒めとして、今も世界のどこかで使われ続けています。
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